女の部下を叱れない―男の我慢・女の不満

 1995年。
 白いミニスカートを制服(キャンペーンガールではなく、通常の社員の女性)に採用することが「社員の士気と顧客の満足度を高める」ことだと男性が堂々と言えた最後の時代。

 その男女雇用機会均等法直後の社会の混乱を、都の労務担当の相談員が、極めて冷静に浮き彫りにしてみせたのが本書である。上記の例は、本書に出てくる事例のひとつである。

 結局は、従来の日本型社会では、男女共に、人間が仕事の成果そのものでは評価されていなかったということが最大の問題なのだろう。

 男性は、「いかに自分の時間の全てを捧げて滅私奉公できるか」という要素、女性は「いかに明るくて優しく気配りができるか」という要素が、仕事の内容そのものよりもその人の社会生活上の評価とっては重要なのである。
 評価基準が男女で異なるだけの違いだ。

 そこから分かることは…。
 厳しく本質に踏み込んだ考え方をすれば、「命を懸けて」やっているはずの仕事の価値が、男女両性にとって「その程度のもの」であることをはからずも露呈しているような気がしてならない。

 つまり、本質的には、首のすげ替えがいつでも可能な組織の論理の中で右往左往しているということに男女差はないのだ。



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 それから約十年。男性は「老兵は去るのみ」と職場を追われ、女性は戦いに疲れて人間性を取り戻すために職場を自ら去るという現象が相次いだ。
 恐らく、職場を戦場と例えれば、強く、欠点のない若い男性が戦士として最も適当なのであろう。

 心身ともに弱みを出すことを禁じられた環境にいる限り、「仕事と私生活の両立」を悩む女性を「甘ちゃん」としか思えない男性の心理が変化するとはとても思えない。
 男性にとって、働くと言うことは、自分の全てを捧げるということなのだから(時には命まで)…。

 本書には、従来の価値観を振り回す男性。圧力を受けて苦しむ当事者の若い女性。女性であるけれど「セクハラも何もかも織り込み済みでやれ」というふうに男性の価値観をふりかざす「名誉男性」の女性キャリア。本書には、この問題に関わる典型的な人物が全て登場する。

 この「役者が揃った」状態で、あらゆる立場の言い分を聞く。それが本書の筆者の役割だ。それを読んだ結果、何の「気付き」もなく、従来の自分の固定観念に捉われているとしたら、それはかなり救いようがない状態である。
 
 「公私混同するな」
 社会人の基本として、かならず叩き込まれるこの概念。
 公私混同しているのは、一体誰なのか?何が公私混同なのか?もう一度それぞれが考えてみる必要があるだろう。
 
 本書では、どのような忙しく期限の決まった仕事に迫られている職場でも、「有能な男性並みに仕事の出来る女性」より「周りを和やかにしている気配りの出来る女性」を同僚として迎えたいと考えているという男性対象のアンケート結果が披露される。
 
 2005年を迎えようとしている現時点で、「新しい女性の働き方」などのテーマの本を見ても、「女性としての利点や良さを生かしながら仕事をする」などの主張が主体であり、能力以外に女性ならではの魅力が必要というマンネリな切り口は以前と変わらず、あまり新味のある視点はない。
 確かに、男性にとっても人柄すなわちEQの高さは、組織の中でうまくやる上で不可欠である。それでは、「女性としての特性や長所」とそうしたユニセックスな「人間性」との違いをことさら強調することの意味は、一体何なのだろうか?
  
 十年の歳月をかけて、結局は女性に望まれる資質には、この本に記載している事実に基本的な変化はない。家族の一員や恋人などの個人的な存在として重要な資質と、職業人として求められる資質がオーバーラップしているという状況に変わりはない。 
 男性の感じている閉塞感に変化があるとも思えず、職場に「擬似家庭」「擬似酒場」のような癒しの環境を求める疲れきった男性の心にも、基本的な変化はないのだ。

 少しの希望と言えば、それらの組織に別れを告げて、独立起業をしようとする人々が吹かせる新しい風くらいだろうか。

 現代では、男性も女性同様に「個人」と「仕事」の関係を考えることを余儀なくされている。
お互いにワークライフバランスを適正に保ちながら働くことを認め合う社会
適者生存、弱肉強食の社会
 そののどちらを選択するのかを誰もが考えなくてはならなくなった。
 そのなかで「男女の性差」というのは、ある意味シンボリックな事柄である。しかし、性差に限定した議論のみでワークライフバランスを議論することはもはや出来そうにない。

 結局は、今の時代に職場を「戦場」として捉えること自体がもう古いということなのだろう。

 この本は、男女両性、どの年代の人が読んでも痛みを感じる本である。
少し、ブルーになってしまうかもしれない。出来れば、見ざる聞かざる言わざるで済ませたいテーマであることは私にも分かる。

 だからこそ絶対に一読すべきであり、男女が共生する新しい社会の実現がきれい事では済まされないことを知ることが必要なのだと思う。問題から目をそらさない方が、結局は前向きな気分になれることもあるのだ。



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