椿1

 集団心理は、この世の自然発生現象の中で最も恐ろしいもののひとつです。

 同じ価値観、同じ性別、同じ年齢の人々と
「そうそう、それってあるよね。」
と盛り上がって話すのは楽しいものです。
そこでは少しでも異質なものは排除され、自分の意見に反対する人はいません。
 もし、ちょっとでも、皆の色に染まらない人がいれば、いじめて追い出してしまえばいいわけです。これが子供から大人まで社会に蔓延しているいじめの正体です。

 ところで、二十世紀最大の医学界の発見のひとつは、1987年にノーベル生理学・医学賞を受賞した、利根川 進博士の「一抗原一抗体説」に基づく免疫の多様性の研究でしょう。

 「一抗原一抗体説」は、乱暴に言うと、体の中に侵入してきた異物(細菌やウイルス、花粉などの各種抗原)に対応できる抗体は一種類だけである、という意味です。その一種類の抗体を作り出すための抗体産生細胞(リンパ球のうちのB細胞)は、抗原の侵入に感作されて初めて指数関数的に増殖して必要な抗体を作り出します。ここで重要な点は、鍵と鍵穴のように、一つの抗原に抗体が対応しており、他の抗体はいくら存在していても無意味だという点です。
 この考えは、生体反応に留まらない多くの哲学的示唆を私達に示してくれました。

 一人の敵と戦える兵隊は全く同じクローン人間から編成された部隊だけ。そして人間を攻撃する外敵は、無数にあります。
 つまり、生体内においては、同じ種類のクローンばかりが存在していると、人間の体は滅びてしまうのです。つまり、体のシステムにとっては、強者も弱者も少数派も多数派もなく、とにかく「種類が多い」ということが重要なのです。

 ところが人間の一般社会においては、全くこれと逆のことが良しとされています。
 つまり人間の均質化です。
 ある目的にとって都合の良いタイプの人間がいると、そういったタイプばかりを揃えて、それ以外の人を排除しようとする。
 本当は、多様な人材がいた方が、組織が危機に陥ったときには新しい発想が生まれるはずです。でも、似通った価値観の人しかいないために、あっという間に崩壊してしまう。つまり予想外で突発的に起こる新しい問題に常に対処しておけるようにするためには、同じ種類の人間ばかりが揃っていても無駄ということです。


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 実のところ、シャーレの中で、特定の抗体だけを産生する単一のクローンの細胞を増やすのは、結構な手間暇がかかります。色々に加工したり、工夫して気を遣わないと、あっという間に細胞が死に絶えてしまうのです。
 実のところ単一の細胞が何の手助けもなしに、自律的に簡単に増殖するのは、病んだ細胞だけです。つまりそれが「癌」です。
 ところが、ワイルドの細胞(自然のままの細胞群が混在した状態)は、大した手助けをしなくても相互的に細胞の増殖因子を補い合って、勝手にどんどん増えていきます。
 とても強いのです。

 単一の免疫細胞のクローンを増やそうとする研究は、腫瘍細胞に対する免疫を強化して癌をやっつける研究などの目的のために行なわれていますが、実のところは、細胞を純粋にしようとすればするほど、多くの問題が生じてしまうのです。

 逆に、ワイルドの細胞を培養する難点を挙げると、強いものばかりがどんどん増え、増殖に必要な多様性を保つための「弱い」細胞が死に絶えてしまうことでしょう。
 その結果、爆発的に増えた後、突然その細胞全体が全滅してしまうのです。
 強者の驕りを見せ付けられる瞬間と言えましょう。

 何だか、人間の社会に似ていませんか?


*利根川進博士の免疫の多様性の研究のエッセンスに関しては名著
精神と物質―分子生物学はどこまで生命の謎を解けるかをお読みになってご存知の方も多いかと思います。まだの方は、とても分かりやすくお勧めなので是非お読み下さい。
 

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