複雑系による科学革命

 マイケル・クライトン原作の映画
ジュラシック・パーク
には、かっこいいライダース風の革ジャンを着た数学者ドクター・マルコムが出てくる。
 その彼が、遺伝子工学によって創られた恐竜が人間を襲う可能性について言及する時に「複雑系」という理論を持ち出すのをご存知の方も多いだろう。

 その分野の方には大変申し訳ないが、私にとって「複雑系」というのは、自分が考えた仮定が誤っていると分かったり予想外の展開を見せた時、物事がうまくいかなかった時のジョークとして、「これは複雑系だから」と誤魔化すときに用いる、そういう概念(?)になり下がっていた。
 自分がちょっと詳しい分野だと、針の先ほどの間違いも許さないくせに、随分と大雑把なくくりの物言いである。人間とは、本当にいい加減なものだ。

 そんな私が複雑系関係の著書を読んだのは、久しぶりだ。
 その私のレベルまで下りて来て、複雑系を分かりやすく説明してくれるのが本書である。

 ロールプレイングゲームをする時に、要の場面に来ると、その部分を保存しておいて、幾通りかのやり方で物語を進めてみて、その後の展開がどのように変わるか試してみるのは私だけではないだろう。

 私達の宇宙がこのように成り立っていること、生命の誕生と進化、戦争、ゆうべコンピューターと戦ってボロ負けしたチェスの結果、買ったとたんに下がってしまった株価、失った恋、たった今終わったサッカーの試合…。
 この世のあらゆる事象において、もう一度時計のねじを巻き戻したらどうなるかという疑問は尽きない。

 本書は、そうしたあらゆるこの世の事象を、あるがままの「複雑系」の理論どおりに仮想世界(コンピューター上)に構築出来ないか?という研究についての著書である。
 仮想世界=現実世界にしてしまおうというのが複雑系の真骨頂なのだろう。


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 普通の学問は、科学的事実を、ある範囲での限られた仮定の中でのみ成り立つ狭い意味での「バーチャルな」出来事として扱っている。それと異なり、複雑系によるシュミレーションは、全ての現象を私達の世界に存在するのと同じ条件で捉えようというわけである。
 「カオス」をカオスのままにしておかず、ステップを踏んであるべき姿に構築する学問が複雑系の理論なのだろうと思う。

 本書を読んで、久しぶりに、星空を見ては「宇宙は一体どんな風に出来ているんだろう」と果てしない夢をふくらませていた子供時代を思い出した。
 分からないことを分からないままにしておくのは、やっぱり幸福ではないのだ。

 「細胞レベルではない生体としての人間の機能全体」や「大勢の人が関わりあって出来る私達の社会」を完全に何らかの方法でバーチャルな世界に構築する。そして、あらゆる起こりえる事態を、あらかじめシュミレーションする。そのことによって、あらゆる「誤り」を医療、政治、経済活動などの人間社会の重要分野から取り除けないか?
 そのためには、具体的にはどのようなファクターを前提となる因子として用いれば良いか?
(勿論、そうした研究は既に行なわれているが)
 本書を読んでいる間、かなり真剣にそんなことを考えていた私である。
 
 そんな大きな夢も、決して遠い未来の夢ではないと、真剣に思わせてくれるのが本書である。そのための礎が、恐らく現在までに積みあげられた個別の「前提」についての研究なのだろう。何事も無駄ではない。

 ところで、話は変わるが…。
 理科系の学問の中でも、数理系の分野をやっている方の能力の特別さは、本当に尊敬に値する。
 学校レベルの数学は割合に好きだった私だが、そうした次元を遥かに超えた天賦の才を持つ方々。女性の美貌のレベルで言えば、その辺のかわいい女の子とスーパーモデル位の違いがあると思われる。
 こうした特別な頭脳を持った方々は、冗談抜きで、人類全体の財産として、是非、教育などでも特別な配慮をしていただきたい。日本では、こういうタイプの人々は本当に浮かばれないのではないかと心配である。
 天才スポーツ選手などと同じ扱いでも良いのではないか?と個人的には思っている。

 以前に読んだ本です。こちらもお勧め。
 こちらの方が、内容的には踏み込んであると思います。
 複雑系の研究の成り立ち、基本概念に興味をお持ちの方はこちらをお勧めいたします。

複雑系―生命現象から政治、経済までを統合する知の革命


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