テストステロン―愛と暴力のホルモン

       テストステロンを飼いならす
 
 「男らしい人」と言われて、悪い気持ちのする男性はいないだろう。
 「男らしい」というのは、古今東西、男性に対する誉め言葉であり続けた。
 本来は「女らしい」というのも誉め言葉であったものが、近年になって、何だか微妙な様相を呈してきたのとは対照的である。

 「女らしさ」について語った本は数多いが、「男らしさ」について詳しく語った本は数少ない。
 本書は、「男性ホルモン」の名でつとに知られるテストステロンが、脳の性差に関して、どのような影響を及ぼすかということを膨大なデータをもとに調査、「男らしさ」の文化的側面について論じた力作である。

 残念ながら本書は、「男らしさ」を全面的に褒め称える本ではない。
 男らしさのもつ、光と影の側面を徹底的に検証した本である。
 どのような性質でも、長所と欠点は表裏一体の関係にある。
 男らしさは、素早い決断や「古典的な意味合いでの(後述)」リーダーシップを意味すると同時に、論理の欠如と短絡性、好戦的な性質をもたらす、と本書にはある。
 「男である」ということを徹底的にまな板の上に載せているが、決して不快な本ではないと思う。
 本書を読んで、「失礼な」と怒り出す男性がいるとしたら、それはもしかしたら、過剰なテストステロンの持ち主かもしれない。
 本書の著者は男性なので、「男性逆差別(?)」のようなイジメはない。
 安心して、どうぞ楽しんで読んで欲しい。
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 本書によると、テストステロンは良い作用としては「空間認知力を高める」「集中力を高める」「勇敢になる」「行動的になる」など、乗り物の運転、冒険、研究の達成などに欠かせない能力を男性に与える。

 その反面、暴力や衝動性、論理的思考力の低下(驚くべきことに論理的思考力は男性的な特徴ではないそうだ)、言語能力の低下、それから集中力が高すぎることによる細部の見落と、他人に対する共感の欠如、などのダークサイドを生み出すという。

 高テストステロンな男性の具体的なイメージはどんなものだろうか。
 ポジティブなものとしては「英雄色を好む」タイプの成功者、冒険家、
 悪いイメージに転ぶと、「問答無用」と相手を切って捨てるような昔の侍や、世界を戦争の論理に導くタイプの「カリスマ」リーダーということになる。

 本書は、高テストステロンな男性と低テストロンな男性な男性のつく職業、思考回路、社会的行動の違いについて詳しく論じる。

 本書によると、もっとも「男らしい」思考をもった高テストステロンの人々は、世界の「リーダー」の一部(全部ではない:後述)、冒険家、ブルーカラー、その逆に、それから誤解を恐れずに言うと、ある種の犯罪者たちに多く認められるという。


 しかし最も重要なポイントは、どのような職業でも、高テストステロンなタイプと低テストステロンなタイプの男性がいるということである。当たり前のことであるが、「同じ職業」についているからといって、同じ性格であるとは限らない。


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 著者らは、あるヨット上で、あらかじめ女性達にヨットに同乗している男性医師達(つまり同じ職業)の支配的性格度を評価させ、テストステロンレヴェルと相関させたところ、「威張る」タイプの男性ほど、テストステロンの値が高かったという。

 それに加え、本書では、リーダータイプの人を例に挙げ、同じリーダータイプでもテストステロンレヴェルの違いにより、リーダーシップのタイプの違いがあるという。

 対話を重視し、平和を好むタイプのリーダーは、テストステロンレベルがそれほど高くない。
 逆に、好戦的で問答無用のタイプのリーダー、論理ではなく力で支配するタイプのリーダーは、テストステロンのレヴェルが著しく高いと述べている。
 これは、まさしく、古典的な「王」の姿である。

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 この検査のことを知ると、ある種の「男らしい」男性の多くは、「自分のテストステロンレヴェルがなるべく高い」ことを望むらしい。
 しかし著者らのデータによると、「テストステロンレヴェルが、男性としては低めである方が、集中力、リーダーシップともに適正である」という。

 何と驚くべきことに、いわゆる「社会的成功者」の殆どは「低テストステロンな男性」らしいのだ。
 低テストステロンといっても、「メス化した」とか「フェミ男君」などというのではな。
 テストステロンの値が低い=適正な男性こそが、一般的にいう「男らしい」男性であるらしいのだ。

 具体的な例をあげると、本書の著者(私ではない)は、ブッシュ大統領のことが嫌いらしく、「テストステロン性単純理論好き」と、ばっさりと切って捨てている。
 恐らく、それが高じた世界中のいわゆる「独裁者」やテロリストは、極端な高テストステロンのために、色々な人の立場を汲み取る「網目思考」が欠如してしまい、短絡思考の罠にはまりこんでしまっているのだと著者は結論付ける。
 極度に高テストステロンな支配者による、「男性的」な論理が支配する政治は、恐怖政治になってしまうということだ。

 一般的な意味での、男女共に信頼をあつめるようなタイプの、人情に厚く「男らしい」男性は、テストステロンの値が「適度」で「高すぎない」人々のことだったのだ。
 
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 成功の度合いから見ても、優れたリーダー、冒険家、研究者、哲学者、文学者…すべからく真の成功を得るためには、テストステロンレヴェルが高すぎては駄目らしい。

 何故なら、実のところはテストステロンの値はそれが適正なレヴェル以下の時のみ、その特長である集中力や空間認知力が、より良く発揮されるらしいのだ。

 その上、テストテストステロンレヴェルが適正であると、テステロンが本来下げてしまう「論理的思考力」「言語能力」が程よく保たれる。
それにより、他人を説得しやすく、粗暴な衝動もなくなり冷静さが加わるということだ。

 適度な闘争心は自分を高めるが、過度なそれは自分を自滅させてしまう。
 結局はそういうことなのだろう。
 つまり適正なテストステロンレヴェルが保たれることにより、テストステロンの良い面が最もうまく発揮され、男性として、より成功をおさめやすいそうなのだ。
 そして、こうした人物は、女性から好かれるだけではなく、男性同士の信頼も集めやすいという。
 これを筆者らは、「テストステロンを飼いならす」と表現している。

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 ところで、このことは女性の視点からの、日常レベルで考えると辻褄が合う。多くの女性が求めるのは、適度な男らしさだ。
 大抵の女性に、
「どんな男性が好き?」と聞くと「男らしい人」という言葉が返ってくることは意外に少ない。
 私が聞いた範囲で、最も多い回答は、「優しい人」である。

 優しい人といっても、女性達が好むのは、「気弱な人」という意味ではなく「人間的包容力がある」という意味であるらしい。
 どうも、女性達は「粗暴な」イメージを嫌い、「紳士」としての男らしさを求めて、「優しさ」という単語を持ち出すらしい。
 つまり、大抵の女性達は、テストステロンのレヴェルがほどほどの男性を最も好む。
 
 分かりやすい例をあげると、ディズニー映画
美女と野獣 、男らしいけれど単細胞なガストンより、屋敷の中を本でいっぱいにしている「野獣」の方が、殆どの現代の女性とって魅力的に映るというようなものであろうか。

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 本書によると、もうひとつ、女性が「程よいテストステロンの男性」が好きな理由があるという。
 テストステロンレヴェルが高すぎる男性は、好戦的なだけでなく、いわゆる「女好きで浮気性」だということなのだ。つまり永遠のハンターだ。
 「家庭に満たされない思いをする」男性は、テストステロンレヴェルが高いという。

 逆にテストステロンレヴェルが適正な男性は、家庭的で結婚生活に満足することが多いという。
 
 これを「生物学的戦略の違い」と言ってしまうと、決して善悪に分けられるものではないかもしれない。
 少なくとも、この点に関しては、男性サイドから見れば、テストステロンが高かろうと低かろうとどちらでも良いのかもしれない。
 しかし、女性にとってどちらがありがたいかは、火を見るより明らかであろう。
 
 昔ならいざ知らず、別の側面から言うと、政治家にとって、今や「スキャンダル」が致命傷になることを考えると、どちらが有利か、という問題もある。
 私は「仕事さえちゃんとやっており、自分に迷惑がかからなければ、男女を問わず、プライベートに関することは気にしない」という考えをもっている。
 それは私なりの「個人主義的な考え」に基づいている。
 しかし、私のような考えは、現代では比較的まれであるようだ。

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 ところで、私は、「男らしさ」が世を滅ぼすとはとても思えない。
 ごちゃごちゃと理屈をこねない「からっとした男らしさ」の支持者でもある。
 ある種の「明快さ」に個人的に救われたことも何度もある。
 しかし、テストステロンレヴェルが高すぎると、どうもそういった次元をはるかに通り越してしまうらしいのだ。
 つまり、「感情が暴走し、闘争的になる」レヴェルに至ってしまうということだ。
 (著者は、女性の「感情の暴走」とその男性的な衝動の違いを明確に説明してくれていないので、私にはその部分は説明出来ないのでご容赦願いたい。)

 ひとつ自分の社会経験上言えるのは、女性が感情を爆発させるのは夫婦・恋人などの個人的な場が殆どだ。
 ところが男性は、突然、駅の窓口で怒鳴り始めたり、けんかを始めたり、わりに公の場で感情を荒げることが多い。
 つまり、男性にとっては、「闘争」というのは社会的にある程度当然の「かけひき」の手段になっているということは言えると思う。

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 ところで高テストステロンレヴェルの男性のもうひとつの特徴として、「寂しがりや」ということがあるらしい。高テストステロンレヴェルの好戦的な男性は、必ず、同じような男性同士の「グループ」をつくって、徒党を組んで行動するそうだ。例えば、少年ギャングや、裏街道の人々などを想像すると分かりやすいだろう。

 そうして、そうしたグループ同士で小競り合いをする、というのが、最もプリミティブな男性的な行動の原型だという。
 つまり、「戦争の雛形」である。

 この行動パターンは、「狩り」や「部族間の縄張り争い」が死活問題であった遠い昔には、極めて重要な性質だったのであろう。

 より原始的な社会では、「問答無用」の論理で、何事も「戦争」で解決する社会にふさわしい、勇敢で迷いのないリーダーが必要とされた。
 そうした原始的な社会では、何と女性達もそうした「超男性」的な、獰猛といっても良い男性を求めるという。当然だろう。暴力が支配する社会では「力で自分を守ってくれる男性」が必要なのだ。

 世界の歴史には暴君ネロ、ヒットラーを始め、高テストステロンなリーダーが現れて消えた。
 しかし、戦争よりも対話で物事を解決する時代に、極度に高テストステロンな「独裁者」は必要ない。恐怖と暴力で世界を支配し、美しい女性を無数に自分のまわりにはべらす…。
 どう考えても、あまりにも現代社会に似合わないリーダーの姿だ。
 「内心はどこかそうしたものに憧れる」
 という男性の心理を否定することはしない。
 心の中で願うのと、実行することには、天と地ほどの差がある。
 
 しかし、現代人として求められているのは、著者の言うとおり、自分の中の男性性を<少なくとも公共の場では>飼いならすことなのかもしれない。

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 ところで、テストステロンレヴェルには、先天的な素因による個人的な高低以外に、後天的な要因も深く関わっているという。つまり、「テストステロンがテストステロンを呼ぶ」ということになるらしいのだ。

 何だか先日のデブの帝国で紹介した「砂糖が砂糖をよぶ」「脂肪が脂肪を呼ぶ」と同じ論理だが、どうも人間の脳は、あるものの「中毒」になるとその物質へのセットポイントが上がるように出来ているらしい。過大な刺激の要求である。
 つまり、好戦的な状況におかれると、その場にいる男性全てのテストステロンレヴェルが上昇してしまうという。
 戦時下の人間心理を想像してもらえれば容易に想像がつく。

 もともとが男性の多くは戦争を「自明の理」として、必要悪と捉えがちである。
 それは、自分の中の戦いを求める本能を熟知している証拠であろう。
 女性の多くは、正直なところ戦争というものがまるで理解できない。
 それは内なる部分にそうした衝動がまるでないからだ。
 
 本書によると、女性の中にもテストステロンレヴェルが高い人達がいて、そうした女性は男性社会に受け入れられやすく、好戦的だということだ。
 何となく、過去の女性政治家たちを思い浮かべると、理解出来るような気もしないではない。

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 男性性を排除しようとするのは、勿論間違っている。
 「既にそこにあるもの」
 を否定しては世の中は進歩しないからだ。
 
 しかし、超高テストステロンな論理に基づく「超男性型社会」というのは、幾らなんでもやはり過去のものなのではないか。
 何故なら、どう見ても、私の周囲の現代の男性の殆どが、「適正なテストステロンレヴェルの」望ましい男性達であるように見受けられるからである。

 恐らく、本当のところは「明快なリーダーシップ」に、現代にふさわしい「網目思考」「共感」「言葉による論理」(どれも本書によると女性的な能力だという)などを付け加えていくことが必要なのだろう。

 そうした社会は恐らく、男性同士だけでの「ギルド」ではつくれない。
やはり男女両性が参加して、その特徴を生かしあっていく方が、より未来志向の考え方なのだ。

 さて、男性の方から見た「男として憧れる」のはどんなタイプのリーダーなのだろうか。
 その答えは、勿論、私には分からない。

 *「性ホルモン」は脳の性差の全てではありませんが、詳細は省かせていただきました。ご容赦下さい。


男性の皆様、まな板の鯉にしてしまって申し訳在りません。私には永遠に分からない部分があるということでどうぞお許しくださいませ。この書評が面白かった方はここをクリックして人気blogランキングへ投票よろしくおねがいいたします!


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