東京日和
 今日の東京は、何だか本当に素直な気持ちで、「東京日和」という言葉がふと思い浮かんでしまうような、静かな春の一日だった。

 ちょっと切ない感じさえしてしまうほどの、のどかさだ。
 もちろん、今日の一日が静かだったのは、「私にとっての静かな一日」であったというだけである。
 
 恐らく、このような素晴らしい天気の暖かな日にも、一生を変えるような出来事に出会っている人はいる。何となく、こんな一日が過ごせることに改めてひたすら感謝したくなるような心境になってしまう。
 恐らく、よく言われるように、あまりにも完璧なものは、どこか脆さを感じさせるものなのだ。

tissue 看板
    *手作りのケーキの種類が多いお店です。
 

 今日の陽気に誘われて、街は人であふれていた。
 

 しかし、ごみごみとした嫌な感じの雑踏を形成しているわけではない。殺気立ったところが全然なく、何だかみんなのんびりと幸せそうにみえる。
 犬を連れている人も多かったが、どの犬も皆、利口そうに見えてしまう。
(我が犬は家で留守番だが)

tissue看板2
   *下北沢 "tissue"




 

 

 私ものんびりとカフェに出かけたが、小さな店内は満員だった。

 家に帰った後、ふと荒木経惟つながりで
10年目のセンチメンタルな旅を取り出してぱらぱらとめくってみた。
 1981年に、アラーキーと夫人の陽子さんが、フランス、スペイン、アルゼンチンを旅行した旅行記だ。
 東京日和と同じく、写真が荒木経惟で文章を陽子さんが担当している。

 「東京日和」に至るまでの「予感」は何も感じさせない、ごく普通のご夫妻の明るい旅行記だ。
 そこに、そこはかとない哀愁を感じるのは、私がこの物語の結末を知っているからに他ならない。

tissue店内1
 小春日和の街から、一気にこの本まで発想が飛躍した理由はちゃんとある。
 今朝の私の一日は、旅の記憶に始まったのだ。
 そして、誰かの旅のエッセイを読むことで終わろうとしている。
 ここまでに、一体、どういうつながりがあったのだろうか。



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tissueケーキ1
 今朝出かける前に部屋の整理をしていたら、少し前の大学ノートが出てきた。以前に私がとある場所を旅行中につけていた旅の記録だ。
ノートの見開き一ページ目には、訪れた何箇所かの場所の地名、ルートが細かく書き込まれた手書きの地図が書いてあった。

 その後は、旅行中に行った場所、食べたものが事実関係のみ淡々と記載されている(何しろ覚書なので)。
 特別は感情の記録もない、単なる、何の変哲もない、旅行メモだ。
 でも、そこに個人の日記の原点を見たような気がした。
tissue ケーキ2

「自分のための日記」はそれで十分なのだ。
 その時の感情を細かく書き込まなくても、事実だけを克明に記録してあれば十分なのだ。
 それを見返すだけで、何を感じて考えいていたかは、鮮やかに思い浮かべることが出来る。
 
 付け加えるなら、例えこの大学ノートが出てこなかったとしても、その旅行全体の想い出全体は、私の中にいつも存在している。
 細かい記憶こそ思い出せないかもしれないが、「こういうものだった」と、イメージは既にひとつのクラスターとして私の中に留まり続けているのだ。

 たとえ、このような記録ノートがなくても、そうした思い出の全体像は、いつでも取り出すことが出来る。
 
 本当に個人的な部分の自伝的記憶というのは、やはりこういうものなのだろう。
 オルセー美術館にあるモネのにじんだ輪郭の蓮の花のように、薄目を開けて眺めたような世界なのだ。

 過去記事:記憶は嘘をつく
 
 日記をつける上で、事実と感情とどちらに主眼をおいて記録するのが良いのだろうかと、ふと考えることがある。
 少し前の大人時代のことなら、今回の私が取り出した旅のメモのように、事実関係だけで良いのだろう。
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 しかし、かなり前の記憶、たとえば子供時代ぐらいまでの過去に遡ると、感情ですら曖昧になっている部分がある。時が経つと、おそらく余程のエポックメーキングな出来事以外は、事実だけでなく感情までもが滲んでしまうものなのかもしれない。
 
 尤も、幼少時代の体験は、もはや自覚的な「記憶」などという存在ではなく、私達の人格の一部になってしまっているのかもしれないが…。


 毎日の小さな出来事が、少しづつ小さな塊をつくり、時間が経つにつれてそれが融合し、どんどん大きくなる。
 そして、自分の人生の中のひとつの「時代」の記憶としてひとまとめにされてしまう。

 こんな記憶さえもよみがえらない、忙しい毎日が続くこともある。
 想い出とは、最高に贅沢な体験なのかもしれない。

 やはりこういう当たり前の日常は、本当にかけがえのない時間なのだ。

 
 *これらの本もついでに、取り出して眺めてみました。


センチメンタルな旅・冬の旅


天才アラーキー 写真ノ方法

 


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