影響力の武器―なぜ、人は動かされるのか

    ヒューマン・エラーの原因は何か?
 
 人間の行動の殆どの多くが、ある引き金をきっかけに反応する刺激―反応にほぼ近い、自動的なものであるといったら、驚く人は多いであろう。
 私達の日常は煩雑な物事にあふれており、それらにいちいち深い思考を用いて反応している暇はないのである。

 しかし、このように私達の行動のほとんどが、刺激―反応の関係であったとしても、それらの多くは学習されたものであり、決して生まれながらに備わった「本能」というわけではない。
 当然ながら、この「学習」にはエラーを伴う。
 獲得した学習自体が根本的に誤っている場合もあるが、多くの場合、他の時にはうまくいった方法を他の場面で利用する際に、それがエラーとなってしまうことが多い。

 こうした「引き金特徴」に伴う行動、つまり、ごく日常的な判断を行なうときに私達が用いる心理的な簡便法を「判断のヒューリスティック」という。
 つまりは、ごく表面的かつ部分的な事象により、物事を判断するという意味だ。

 勿論、私達の日常は、こうした簡便法を用いなければ、円滑にまわっていかない。したがって判断のヒューリスティックという概念自体はニュートラルな存在であり善でも悪でもない。
 この方式に従ってしまうことにより、重大な過ちを犯してしまうに至って、それが問題となってくるというわけだ。
 つまりは、判断の簡便法は、より高度な事象には向かない思考法なのである。


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 本書では、判断のヒューリスティックの例として、「高いものは良いものだ」という事例を挙げている。
 
 とある観光地の宝石店で、あまりにも売れ行きが悪いため、値段を1/2にディスカウントしようとしたところ、手違いで2倍の値段の値札をつけてしまった。
 すると、今まで観光客に見向きもされなかった宝石が、飛ぶように売れたというのだ。
 それ以来、その店では、観光シーズになるたびに、宝石に故意に倍の値札を付け、順調に売り上げを伸ばすようになったというのだ。

 もうひとつの、やや深刻な事例としては、機長症候群(Captainitis)の例を挙げている。
 機長症候群とは、機長の明白な判断ミスであっても、他の乗務員が正すことが出来ず(気付かないもしくは気付いていても言えない)、飛行機が墜落してしまう事例が多いことから名づけられた名称である。
 つまり、権威のある専門家の発言や行動であれば、どのような内容でも受け入れられてしまうということによる「エラー」が機長症候群なのである。

 本書によると、こうした事例の調査のため、ある航空会社がフライトシュミレーターによる実験を行なったという。
 その実験とは、その模擬フライトで、機長にはあらかじめ飛行機が墜落するようなプラグロムに従って行動してもらい、他の乗務員がどのように対応するかを調査するという内容であった。
 すると、その結果、何と25%の事例で、「墜落事故」が起こるという結果であったということなのである。

 つまりは、「少々広告にだまされて」日常的な買い物をするという程度の、判断のヒューリスティック≒短絡行動は無害であるが、より重大な状況では、より慎重で、思考型の行動が望まれるのである。

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 こうした自動的な行動パターンは、私達の日常の殆どを占めているにも関わらず、殆どの人間は自分が何かをしたときには「自分がそれを選び取った」と信じている。
 ところが、それは多くの場合、間違っている。
 この事実を良く知る人達は、勿論、それを利用(最悪な場合は“悪用”)することができる。
 実のところは「販売」ということの殆どは、これらの「自動行動」を促す戦略から構成されているといえるわけである。
  
 この短絡行動に影響を与えることが出来る「武器」には幾つかの特徴があるが、その最大のものは、それが私達に決して「意識されない」ということであろう。

 つまり、私達は、殆ど全く「強制的に」そうさせられたという感覚もなく、これらのさりげない影響力の武器によって、無意識に、もしくは気分良く「行動させられてしまう」というわけである。
 人間は、強制されるのが嫌いな生き物であることを考えると、これは容易に理解できよう。

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 これらの「自然さにマスクされた」強力な武器の主だったものには、以下のようなものがある。
  いわれてみれば、「当たり前」のものばかりであり、こうしたものに「騙されないぞ」と身構えている人でさえ、多かれ少なかれあっけなくこれらの影響を受けてしまうものだ。

返報性
 お返しをしなければいけないという心理を相手にもたせる。人間は、人から何かをしてもらってそれが「そのまま」になっているということに、強い不安を感じる性質がある。何かをしてもらった人には何か「お返し」をせずにはいられない。

コミットメントと一貫性
 人間は「一貫性を保った行動をしたい」という強い欲求があり、「論理性」「合理性」「安定性」「誠実さ」の美名のもとに、過去の誤った行動や、ごく単純な反復的行動に執着してしまうことがある。
社会的証明
 「皆がやっていること」はやらずにいられないということ。
 寄付を募るために「寄付をした人のリストを表示する」などの手法である。
好意
 人は好意をもたれると、その相手に何かをしてあげずにはいられない。
 例え、自分が相手に好意をそれほど持っていなくてもそれは同様である。
権威
 先にあげた「機長症候群」のように、人は「権威」「ブランド」「知名度」などのある人もしくはモノに弱い。
希少性
 「数量限定」「期間限定」と言われると買いたくなる心理は誰もが感じることであろう。人間であれば「めったにいないタイプ」「よくあるタイプ」より、魅力的に感じられるかもしれない。希少性が増大し、それが手に入ることが出来なくなった時によりそれを求める心を「心理的リアクタンス」という。
 希少性とは、別の側面では、障害に基づく「得がたさ」をも意味する。
 この心理的リアクタンスが恋愛面ではたらいたものが、いわゆる「ロミオとジュリエット効果」である。
 
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 基本的には、人生においては「どうでも良いこと」に関してはあまり突き詰めず、「大切なこと」に関しては思考を深めなくてはいけないわけである。
 しかし、人間はこのようにそれが例え重大な局面であっても、「利用できる情報のほんの一部の特徴」によって物事を判断するように出来ている。
 
 ここで大切なことは「短絡的」というのは「素早さ」を意味せず、「思考的」というのは「ゆっくりとした」という意味でもないということだ。
 つまりは、こうした手っ取り早い影響力による、「誤った判断」をするかしないかは、判断のスピードとは全く関係がないのだ。
 どちらかというと、自分が何か行動する時に、「一体それを支配しているものが何であるか」を常日頃から分析する習慣をつけておくことが大切なのであろう。


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