認知的理由と感情的理由
  〜欲望と恐怖(greed and fear)に支配されないために
  考えなくてはいけないこととは何か?〜


社会は、個人の感情の総和で成り立っている。

いまさら私が主張するまでもない、常識ともいえる事実である。

株価や地価のような経済活動に関する事柄をはじめ、
社会不安などのような漠然とした
「現象」
明らかな科学事実そのものはともかく、それが受け入れられるかどうかの
「事実認識」
などのあらゆる物事が、
個人の気分の総和で決定されているのは多くの人の理解するところであろう。

どのように
「自分は論理的思考に基づいて客観的な判断を下す方だ。」
と主張する人でも、
現実には個人的な好悪などの感情面のバイアスを取り除くことは出来ない。

むしろ、
こうした問題に無自覚な人ほど、
自分の内面の非論理的な情緒にひきづられてしまいがちなのは面白いところだ。


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逆に、
「自分は好き嫌いで行動している。」
と潔く認めているような人に限って、
徹頭徹尾、冷静で論理的であったりするのは面白いところだ。

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つまりは、人間は
自覚的でさえあれば、
得体の知れないものに引きずられることは少なく、
無自覚であればあるほど、
無意識のうちにその影響を大きく受けてしまうものなのである。

ある現象の未来を予測し、
可能な限り自らのコントロールの下におくためには、
まず対象の存在そのものをはっきりと認識することが、
最初の一歩になるからである。

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「感情」
という明らかにならないものこそが、
「論理的思考」
「分析」
の対象になるべきである理由はそのあたりにある。

 過去記事:感情の科学―心理学は感情をどこまで理解できたか



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だからといって、
「感情」に基づく思い込みが、
「事実」を凌駕しているわけではない。

「私はそう思う」
「私はそう感じる」
ということと、
「○○はこうである」
という事実そのものの区別を曖昧にせず、
自分の中で確認をとり、
きちんと線引きをしながら進んでいくことはやはり大切なである。

「冷静さ」というのは、
結局はこの部分が出来ているのかいないのか、
ということに尽きるからである。

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ただし、世の中の多くの現象が、
こうした
「冷静さ」
に基づいておこることを期待することは間違いである。

「冷静さ」
は自らの矜持として保てば良いことであって、
他人にそれを期待してはいけないことなのだ。

世の中が感情のカオスで成り立っていることを、
私達はあくまでも受け入れなくてはいけない。

つまりは、
自らが必要以上に感情的になる必要はないが、
他人の行動が感情に基づいていることを、
否定してはいけないということだ。


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そうした中で、
できるだけ、
「分析的」
「論理的」
に物事を解釈しようとする際に注意しなくてはいけないことは何であろうか?

それは、
「事実の断片は、決して全体的な現象そのものではない」
ということに気付くことかもしれない。

これを逆方向に考えると、
「分析的になろうとするあまりに、
あまりにも現象を細分化することは無意味である」
といえるだろう。

物事を包括的に考える訓練というのは、
想像以上に困難なことなのである。



行動ファイナンスと投資の心理学―ケースで考える欲望と恐怖の市場行動への影響


良く知られているように、
市場は個人の感情の総和で成り立っている。
つまりは、経済活動の根幹を支配するものは、
“欲望と恐怖(greed and fear)”
である。

そうした中で、
投資家は、妥当性の錯覚(illusion of validity)に陥りやすい。

つまりは、
ある物事を決定する思考の過程の枠組み=フレームにおいて、
独特の道筋をたどりやすいわけである。

そうしたフレーム自体は、ある意味一定の
「勝ちのパターン」
であるわけなので、一概に誤りとは言えない。

しかし、勿論のこと、
常に同じ思考回路による定石が通用するとは限らない。

つまりは、自分に勝利をもたらす法則が、
ある時は大きな失敗をもたらす可能性があるということだ。

そうした一定の傾向、
つまりフレーム依存性(frame dependence)に陥りやすい理由は
大きく分けて、
 *認知的理由
 *感情的理由
にある。

つまり、
 *事実認識の問題か?
 *それを解釈する自分というフィルターという問題か?
という点にある。

そうした抑えがたい感情に支配されているこの世界で、
 *出来うる限り現象を正確に把握し
かつ、
 *セルフ・コントロールを維持するために
有用であるのが本書である。

非常に明快な理論に基づいた良書である。


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