人間にとって顔とは何か―心理学からみた容貌の影響
 人間は、男女を問わず、自分が生まれもった容姿によって、必ず性格形成または社会的立場に影響を受ける。
 それは「美人は得」で「ブスは損」などという、ありがちな説明でひとくくりに出来るほど、単純な問題ではない。  
 
 人間は、その人の生まれつきの「容姿のタイプ」によって性格や能力を判断される。また、外見から判断され、特定の役割を期待されることを幼少期から積み重ねることによって、性格のうち、後天的に形成される部分がある程度影響され、人格そのものが変化する、ということも充分にあり得る。
 
 程度問題はあるが、容貌は、私たちの自己像、他人への認識、そして社会生活に何らかの影響を与えるのだ。

 私は、一時期、そういった「他人からの視覚認識のされ方によって変動する人格形成」とでもいうべきテーマに興味をもち、集中的に勉強をしていた時期があった。
 
 本書は、数ある「顔学」というテーマに関する本の中で、総論的な知識を得るにはもってこい本である。本書を読むことによって、私自身が、自分の知識を整理し、また学問のレベルを離れて、社会生活の中で得ていた様々な確信を深めるのに役立った本であるという点からもお勧めできる。
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 容姿が他人に与える印象は、多岐にわたる因子によって規定される
例えば童顔であるとか大人顔であるかということによって、内面の成熟度が判断されたり、体重の多い少ないによって包容力を判断されたり、身長の高低によって信頼感が判断されたりといったことは誰もが容易に予測できるだろう。
 
 最終的には、これらを含めた多数の要因によって規定されるその人の「魅力度」が社会生活に与える影響は実のところ計り知れない。

 一般には、魅力度が高い方が有利であり、魅力度が低い方が不利であるという風になるのだろうが、物事はそんなに簡単ではない。魅力度のレベル、魅力度の性質、社会的状況などが複雑にからみあって、有利不利は変わるのだと私は思う。
  
 例えば、女性の場合「美人である」ということは性的な対象としては好ましい要因かもしれないが、職業上の理由では時によっては「信用ならない」「頭が悪い」といった印象を男性に与えることもある。ある意味、男性は「美人が嫌い」もっと正確に言うと「美人は信用できない」「美人は中身がない」と思われることもある。

 恐らく、女性としてビジネス上、もっとも有利な容姿は、総合的に見ると、美人でもブスでもないニュートラルな容姿なのかもしれない。つまり、容姿より中身に注目が集まる程度のレベルで、しかし「感じが良い」雰囲気を漂わせているというのが一番「得」であろう。事実、多くのキャリアウーマンが、実はこういうタイプの中庸の装いを心がける。

 ある女性が、どういう社会的評価(特に男性中心社会における評価)を受けるかは、その女性がどういったタイプの美人かにもよる。

 童顔で小柄な「かわいい」女性の場合は、「頼りない。依存心が強い」と思われ、従属的な役割を期待されがちな半面、目上の人に可愛がられやすい。大人顔の女性は「知的美人」として、同じ美人でも能力的に高評価を受けやすい反面、「冷たい」「生意気」「意地悪」などの評価を受けやすい。

 女性の容姿の評価は、社会状況、つまり期待される役割像との兼ね合いという要素も大きい。男性と同等なキャリアウーマン以外の、何らかの職場の花的な役割を期待されている若い女性の一時的な雇用(つまり一般職的役割の女性達)においては、ある意味、広い意味での性的な対象としての役割を期待されているので、容姿端麗というのは、上記のような複雑な要因抜きで、明らかに有利であろう。

 ここら辺で、「ある程度の年齢になったら顔が内面をあらわしているのだ!」という反論を展開したい方もいるだろうが、そう考えた方こそ、是非、この先を読んでいただきたい。

 男性だって、容姿の影響を少なからず受けている。

 二人の男の子の例をあげよう。
 ここに、いくら日焼けをしても色白で、童顔でぽっちゃりとした、眼鏡をかけた背の低い男の子がいるとする。もう一人は子供のころから、日焼けしていなくても色が黒く、筋肉質で大人顔、しかも発育が早く小さい頃からずっと背の高い男の子がいるとする。
 二人とも子供の頃から成績抜群である。運動神経にも少なくとも二人とも特に問題がない。
 この二人の男の子がある小学校のクラスで学級委員に立候補した。どちらが当選するであろうか?
 前者の男の子はその容姿から、なまじ勉強が出来るために「ガリ勉」という評価を受けがちで、後者の方は同じ成績優秀でも何故か「賢くてリーダータイプ」と思われ、皆に一目おかれている。当然のことながら、後者の背の高い男の子の方が学級委員に当選した。    
 その背の高い男の子は、実は少しちょっと意地悪なところがある「いじめっ子タイプ」で、気の弱い子に心無いことをいう癖があったが、それすらも、「彼なら当然」と受け止められているし、皆、彼がちょっぴり恐いので文句も言えない。小柄な男の子の方が、ちょっと悪ふざけをして、友達をからかうような失言をした時は大変であった。「生意気。無神経」とクラスの友達の評価は散々なものであったし、皆のブーイングを受けて、なんと先生までが、背の低い男の子に、「友達をいじめるな」と注意を与えたのだった。
 
 以上のストーリーは、私が、男性が容姿のために社会的影響を受けるありがちな因子がもたらす典型的なパターンを組み合わせて勝手につくり上げた架空の物語である。
 このストーリーを聞いて、「あり得ない!」と思った方はいるだろうか?
 大人の社会なら、確かに、もっと「真実の能力」を評価される比重が増えるが、より原始的な状態(つまり子供時代)ではこういう事はしばしば起こりがちである。
 
 この本は、是非、男性にこそ読んで欲しい本だ。
 何故なら、一般に、男性は女性より見た目に弱いからだ。
 
 何!?俺は違うよ、と思った男性の皆様ごめんなさい。
 もっと正確に言うと、男性の方が、明らかに女性に比べて、視覚的情報により多く影響されやすい人が多いようなのだ

 また、不思議に、「顔じゃないよ。心だよ。」とか「僕は見た目にはこだわりません。中身が大切です。」などという男性に限って、何故か、外見によって他人を判断する傾向がより強いのが不思議である。
 どうも男性は、「相手の見た目」が自分の判断力に影響を及ぼしていることに気付きづらい傾向があるようなのだ。

 男性の場合、自分が相手を「信頼できる」「好感がもてる」などと判断している総合的な情報に、見た目から受ける印象がある程度は含まれていることに全く気付かないケースが多々あるのだ。それは男性同士・対女性ということを問わずに起こりうる。
 しかも、最悪なことにそういう人に限って、「俺は人を見る目がある」と疑いも持たずに信じ込んでしまう傾向があるのだ。つまり、自分が相手を見込んでいるのは、自分が相手のパーソナリティを客観的に判断した結果だと自己満足しているが、実は見た目に影響されているケースも多い。 
 例えは悪いが、悪徳商法の手口に詳しくなく「自分は騙されない」と思っているほど騙され、「もしかしたら騙されるかもしれない」と思って、そういった商法の手口に関する知識を得て用心している人ほど騙されにくいのと全く同じである。
 
 だからこそ、一度はこのような本を読んで、「舞台裏」の心理学的背景を知ることをお勧めしたいのである。

 反対に、女性の多くは「外見で人は判断されます」というと、あっさりと「当たり前じゃない」認める。
 
 今更そんな当たり前のことを何!?という感じである。
 
 そして女性達は、それが容姿の美醜といった次元を超えた「イメージ」の問題であることも、学問的バックグラウンドなど必要とせずに、ごく自然に理解し受け入れている。自分のイメージを自在にコントロールするために、髪型・服装、小物にいたるまで吟味し、時間もお金もかけているのはそのためだ。
「こういう風に判断されたいタイプの自分」を演出することの社会生活上の有用性を、分かっている証拠である。

 若い女性向けファッション誌の大御所「JJ」の人気特集が、「妹タイプのファッション、姉タイプのファッション」であることからもそれは分かる。女性達は、美醜だけではなく、イメージをコントロールすることの重要性をちゃんと知っているのだ。
 男性の多くは、女性が非常に表面的なことに捉われていると思っているようだが、それは少々間違いだ。しかも、多くの女性は、そういう「裏の手口」を知っているので、「見た目」で受けた印象がつくられたものかどうかまでも含めて、かなり冷徹に吟味する傾向がある。
 それから、女性の多くは、けばけばしいなどの悪いイメージを持つ同性に対して、厳密には、「外見上そういうイメージをつくるような無神経さ」を嫌っていることが多い。つまり、装いのいわゆる“TPO”のなさに対しての軽蔑がそのベースになっているのだ。

 恐らく、これらの意識の持ち方の差が生じる原因として考えられるのは、女性の方が、幼少時から、「容姿」の重要度を擦り込まれているため、そのことに関する洞察を深める機会が多いためだと思われる。

 外見の重要性を認識し、それをコントロールしているのが女性。
 外見の重要性への認識が薄いために、それにコントロールされているのが男性。

 個人差はあるが一般にはこういう傾向があると思う。


 その理由としては、上記にあげたような生育歴などの要因以外に、言語・空間認知などにおける脳の性差ということもあるだろう(あくまでも性差別ではなく、純粋な学問的な性差)。
 それに関しても色々と私見があるが、長くなりそうなので、その議論は別の機会に譲りたいと思う。

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